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カテゴリ:企業再生

『負の暖簾(のれん)』と会計基準

RIZAP社(RIZAPグループ 札幌アンビシャス市場2928)は、私にとって注目銘柄の一つです。RIZAP社の事業に興味があるのではなく、同社が事実上、企業再生ファンドになって急激な勢いで業績不振企業を買収していたからです。

瀬戸健社長が2003年4月に設立した、健康食品等の通信販売を手がける健康コーポレーションを起源としている。「結果にコミットする」をキャッチフレーズに2-3カ月で大幅な体重減と体型改善を目指すパーソナル・トレーニングジム「RIZAP」事業の急成長、美容や健康、アパレル分野などへの積極的なM&Aにより事業規模を急拡大させている。現在の企業は2016年に健康コーポレーションの持株会社化により社名変更したもの。社名の「RIZAP」は「RISE」と「UP」を組み合わせた造語で、“どん底の状態からでも、その人が望む限り、必ず高く飛躍できる”という意味が込められているという。

ウィキペディア「RIZAPグループ」より抜粋

 

健康食品等の通信販売から始まってパーソナル・トレーニングジム「RIZAP」事業を創り上げて上場、その高い収益力と経営手腕で次々と不振事業を買収・再生していくRAIZAP社の姿は、私自身の考える理想形の1つでした。瀬戸社長の個性で「プロ経営者」として有名な松本晃氏(注1)まで招聘していて、企業再生人としては羨望の眼差しでRIZAP社を見ていました(笑)。

(注1)
松本晃氏は、医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を経て2009年にカルビーの会長兼CEOに就任。高コスト体質で業績不振にあえいでいた同社を立て直し、2009年度から2016年度まで8年連続の増収増益を達成したプロ経営者・カリスマ経営者である。

 

ところがそのRIZAP社が大きな分岐点を迎えます。高収益企業から業績赤字への転落が公表され、当面は新規のM&Aを原則凍結することになったのです。

2018年11月14日に、業績予想が赤字に転落する見込みとの状況を受け、当面は新規のM&Aを原則凍結する、不採算事業からの撤退・売却を行う、成長事業への経営資源集中などを柱とした構造改革を実施することを明らかにした。

ウィキペディア「RIZAPグループ」より抜粋

 

CMを始めとしたRIZAP社の知名度のせいでしょうか、一企業の業績赤字転落ニュースとしては異例の扱いで、一般ニュースでも大々的に取り上げられていました。また経済専門メディアでは、同社の積極的な業績不振企業の買収は、「負の暖簾(のれん)」による利益嵩上げが狙いだったのでは?と多く指摘されていました。

 

これまでRIZAPグループは、主に経営不振の赤字企業をターゲットとし、その企業の純資産額を下回る金額で買収を行ってきた。
結果、買収額と純資産との差額を負ののれん(割安購入益)として営業利益に計上。2017年度は営業利益の約6割を負ののれんが占めた。2018年度も営業利益の半分程度を見込んでいたが、買収凍結により、103億円の下方修正要因となる。

ライザップ、買収行き詰まりで始まる逆回転
東洋経済online 2018年11月26日配信 より抜粋

 

負の暖簾(のれん)とは

「のれん」とは、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたり生じた差額を意味していて、その差額がマイナスの場合を「負ののれん」と呼びます。(連結財務諸表に関する会計基準 第24項)

連結財務諸表に関する会計基準
投資と資本の相殺消去

23. 親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は、相殺消去する。
(1) 親会社の子会社に対する投資の金額は、支配獲得日の時価による。
(2) 子会社の資本は、子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評 価・換算差額等と評価差額からなる。

24. 親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたり、差額が生じる場合には、当該差額をのれん(又は負ののれん)とする。なお、のれん(又は負ののれん)は、企業結合会計基準第 32 項(又は第 33 項)に従って会計処理する。

 

何を言っているか、良く分かりませんね(笑)。単純化して説明します。

ある会社を買収するにあたって、買収価額は当事者間の合意によって決定されます。買収価額は、被買収会社の時価純資産(特定時点の解散価値)と同一ではなく、利益が出ているような会社ではプレミアムが上乗せされます。その差額が「のれん」です。

一方で、被買収会社が赤字企業のような場合は逆プレミアムが発生します。その場合には「負ののれん」が生じるのです。

 

会計学的な一般論では、「負ののれん」が生じるのは「希なケース」と言われます。ですが上場企業のPBRをみても分かるとおり、時価総額が純資産割れ(PBR1倍未満)の状態というのは「希なケース」ではありません。Yahooファイナンスで上場企業PBRを検索してみても、検索可能な上場企業3,716社のうち半数近くの1,800社以上がPBR1倍未満となっています。(2019年1月30日現在、セカンド・オピニオン社調べ)

 

RIZAP社への「会計不勉強」な報道姿勢

RIZAP社に対する一般報道の中で

・RIZAP社は「負ののれん」を悪用して利益を嵩上げしている。
・RIZAP社は「IFRS(国際会計基準)」と「負ののれん」を悪用している。

のような論調がありましたが、これはメディア側の不勉強に起因しています。「負ののれん」を一括して利益基に計上するのは日本基準だろうとIFRSだろうと同じで、それ以外の会計処理をした瞬間に「不適切会計」です。悪用なんてしていません(笑)。

 

「利益を嵩上げ」ではなく、「営業利益を嵩上げ」なら、まだ理解できますが、それも正確ではありません。日本基準では負ののれんよる利益は「特別損益」として計上します(企業結合会計基準48項)が、IFRSでは日本基準のような特別損益という概念がありません。

これを理由に「営業利益を良く見せている」というにはムリがあり過ぎるのです。日本基準では「多額の費用が生じると、何でも一時的な特別損益項目としてしまい、逆に粉飾的に営業利益を良く見せていてオカシイ!」という世界的な指摘があります。良い・悪いという一元的な視点ではなく、「営業利益とは何?」という定義と業績判断の着目点の相違でしかありません。日本では日本的「営業利益」「経常利益」による業績分析が好まれるとは言え、一部メディアの不勉強かつ恣意的な指摘には唖然としてしまいました。

 

それでもRIZAP社の今後に注目

会計学や一般論は抜きに、私自身は

「負ののれん」とは今後見込まれる赤字額を見込んだ逆プレミアム

と理解しています。今の会計ルールでは「今後見込まれる赤字額」相当額が買収時に一括して利益計上されてしまうので、「買収した会社の黒字化成功」が大前提になっているとも言い換えられます。

 

もし買収した会社が今まで通り赤字を継続するのであれば、「会社再建を想定した利益の先取り」をしただけで、翌期以降に赤字会社をそのまま抱えるという大きなリスクを背負い込むことになります。

RIZAP社の場合、会社再建を果たせそうも無い赤字会社を無分別に抱え込み過ぎたのです。本業の大幅黒字のあるうちに、これら赤字会社群の切り離し(売却)が出来るでしょうか?

 

 

セカンド・オピニオン㈱代表取締役
企業再生人® 小澤隆
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