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カテゴリ:企業再生

敵対的TOB

TOBとはティー・オー・ビーと読み、Take-Over Bidの略語です。日本では「上場企業の強制公開買付制度」の代名詞になっています。

上場企業の強制公開買付制度

金融商品取引法第27条の2により、上場企業の株式を市場外で一定数以上(5%ルール33%超ルール)の「買付け等」をする場合などには、原則として公開買付けによらねばならない。株式の買い集めについて対象企業の経営陣の了承を得ているかどうかにより、友好的TOBと敵対的TOBとに分かれる

MBOによる全部買付→非公開化や親子上場会社間の組織再編、当事者間で決定済みの資本業務提携等、対象企業の経営陣が了承している友好的TOBが圧倒的に多いです。

映画や小説ではドラマチックに敵対的TOBストーリーが出てきて、一般的にはこちらのイメージの方が強いかもしれません。2005年のライブドア社によるニッポン放送及びフジテレビに仕掛けた敵対的TOBは有名ですが、こういう敵対的TOBは、ケースとすると稀なのです。

背景はかなり違うのですが、大手商社伊藤忠(東証1部 8001)は2019年1月31日、スポーツ用品大手デサント(東証1部 8114)への出資比率を現在の30.44%から最大40%に引き上げるべく、敵対的TOBを実施しました。

 

伊藤忠VSデサント 敵対的TOBの背景

デサントは1984年と1998年の2度経営危機を迎えます。これをデサント石本恵一社長(当時、現:石本正敏社長の父)の要請により資本業務提携・役員派遣で支えたのが伊藤忠でした。海外大手ブランドの商標権を国内市場に展開する収益構造を改革していったのです。「バーバリー」ライセンスの打ち切りで経営危機に陥っている三陽商会(東証1部 8011)と同じパターンです。デサントの場合は「アディダス」でした。1998年にアディダスからライセンス契約を打ち切られ、売上高の4割を失った“アディダスショック“が2度目の経営危機です。

そういった蜜月関係にヒビが入ったのは、2012年12月に石本恵一会長(当時)が死去した直後の「創業家による反乱」です。1994年以降デサント社長は伊藤忠から派遣されていたのですが、2013年2月取締役会での特別動議により社長解任、創業家である現社長の石本正敏氏を新社長に選任したのです。

この社長交代劇は事前に伊藤忠側には知らされていませんでした。伊藤忠側から見れば、とても容認できるものではなく、激怒して当然です。この「創業家の反乱」が敵対的TOBの起因になっています。

 

敵対的TOB 発動

「通し」 当社が直接仕入れを行っている取引先との間の仕入取引について、伊藤忠商事が間に入り、伝票上、伊藤忠商事が当該取引先から仕入れ、当社に対して販売する取引形態とすること

「付け替え」 当社が他の商社を通じて行っている仕入取引について、当該商社に代えて、伊藤忠商事を通じて仕入取引を行うこと

(デサント社IR『公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ』より抜粋)

創業家側からすれば、「経営危機を救ってもらったとはいえ、株主としての立場を利用して、取引に関与して中間マージンをいつまでも吸い上げられては堪らない。業績も回復したのだから、デサントの経営権はデサント側に戻したい」という考えです。

一方伊藤忠側からみれば、「経営危機を2度も救ったうえに、現在の業績回復の基盤を作ったのは伊藤忠側の施策だ。それを騙し討ちのように経営権を引き渡せとは何事だ!」となります。

 

2013年の「創業家の反乱」で、理由はナゾですが伊藤忠側は「資本の論理」による直接的な制裁(経営者交代)を実施しませんでした。デサント側に頭を冷やす冷却期間を与えたのでしょうか?それともデサント側主張にある程度の合理性を認めていたのでしょうか? 石本恵一会長が存命であればこのような衝突は生じなかったでしょう。「資本の論理」を無視して独自路線を進みたいデサント社と、子飼いの関連会社に手を噛まれた伊藤忠は、緊張関係を継続しながら時間が過ぎます。

その後話し合いは続きますが、両者の溝は埋まらず、2018年6月に伊藤忠側も決着をつけるべく、伊藤忠の岡藤正広・代表取締役会長CEOとデサント石本社長とのトップ会談が行われ、「子会社化や株式売却」も含めた話し合いがされたと報道されています。

 

双方のIRを見ていて、ここまで両社の溝が深まる前に、このような無謀な戦いを仕掛ける前に、デサント社側の誰かがデサント社経営陣に諫言出来なかったのだろうか?と思います。デサント社側の言い分は「資本の論理」を退けるには不十分で、泥試合化に拍車がかかってしまいました。【IRや外部報道情報のみを見た限りでの個人的意見です

2018年6月  伊藤忠・デサント社のトップ会談
2018年7月  伊藤忠 株式保有を25.7%から買い増しを始める
2018年8月  デサント社 ワコール社と業務提携。無連絡の株式買い増しを非難
2018年10月  デサント社側、岡藤会長CEOと石本社長の会談内容を週刊誌にリーク
2019年1月  伊藤忠 株式保有30.4% デサント社へのTOB(40%)を発表

 

「資本の論理」への有効な対抗手段がないデサント側は、「高圧的に指示をする筆頭株主に対抗する創業家」を醸し出して世論を味方につける戦略を取ります。しかし、その後の戦術は稚拙に見えます。

TOB対抗の「白馬の騎士」役割を想定されたワコール社の安原弘展社長は2018年10月の決算会見の席上で、「現段階では、資本関係を結ぶつもりはない」と完全否定しています。

またデサント社側からリークされた文春砲「週刊文春」2018年11月1日号『伊藤忠のドン岡藤会長の“恫喝テープ。デサント社長に「商売なくなるで」』にいたっては、隠し撮りではリーク側の主張部分のみが誇張されて報道されるのが常で正当性がありませんし、「トップ会談を隠し撮りしてリーク」という行為自体が、他の企業・金融機関から反発を受けてしまいました。

こうして「高圧的に指示をする筆頭株主に対抗する創業家」のイメージ戦略は不発に終わってしまいます。

 

敵対的TOBの勝者は?

TOBは大方の予想通り、伊藤忠側の圧倒的勝利で成立しました。目標の721万株に対して約2倍の約1,500万株の応募があったと報道されています。一般的なプレミアム20%~30%より高い50%でのTOB価格 & 発行済株式数10%程度の少ない株式数がターゲットだったので、伊藤忠側の作戦勝ちです。日本では珍しい、大企業同士の敵対的TOBの成功例になりました。

 

M&A助言会社レコフによると、昭和60年以降、国内で敵対的TOBで経営の支配権を握ったのは独製薬大手ベーリンガーインゲルハイムがエスエス製薬の筆頭株主になった事例などわずかで、国内の大手企業同士による敵対的TOBの成立はきわめて異例だ。

産経webニュース「伊藤忠、デサント株TOB成立 40%保有」2019.03.15配信より抜粋・引用

 

今後は石本社長を含む現経営陣の退陣が見込まれ、経営権争いが鎮静化していくと思います。現経営陣により社内は「反 伊藤忠」の考えが浸透しているかもしれませんが、既に勝敗は決しています。また外部から見ていると、現経営陣の動き方はとても身勝手にも映っています。新経営陣への速やかな経営権移譲により、事業への悪影響を最小限に抑えて、新たな出発を迎えて欲しいと願います。

 

 

セカンド・オピニオン㈱代表取締役
企業再生人® 小澤隆
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