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カテゴリ:企業再生

非居住者とPermanent Traveler(永遠の旅人)

非居住者」という言葉を聞いたことがありますか? この言葉は民法や戸籍法規定ではなく、税法の中で出てくる概念です。

我が国の所得税法では、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。

「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。

したがって、「住所」は、その人の生活の中心がどこかで判定されます。ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、職務内容や契約等を基に「住所の推定」を行うことになります。「居所」は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。

法人については、本店所在地がどこにあるかにより、内国法人又は外国法人の判定が行われます(これを一般に「本店所在地主義」といいます。)。

国税庁HP「タックスアンサーNo.2875 居住者と非居住者の区分」より

 

なぜ税法で出てくるかというと、「居住者」か「非居住者」かで、個人であれば支払う所得税や相続税、法人であれば法人税等の金額が変わるからです。

 

 

節税のために海外移住??

企業再生を進めるうえで、費用削減による損益改善は最初の一歩になりますが、結局売上を増やしていかないと会社の回復・成長は望めません。少子高齢化・人口減少の日本市場のみを視野に入れていると、現状維持ですら市場縮小に伴ってジリ貧になってしまいます。中小企業と言えど、海外市場に目を向けるのは必須だと私は考えています。

企業再生業務としても滞在地が1カ国ではなく複数国にまたがっていきます。会計士資格を保有しているからでしょうか? 日本だけでなく米国・シンガポール・香港のような低税率国を含む10カ国以上に事業展開しているからでしょうか?悲しいことに「企業再生人さんは非居住者になるために海外に行くの?」のような質問を真顔でされることがあります。

 

この「居住者」か「非居住者」の区分は、実は明確な形式基準がありません。一応目安となるのは「滞在日数が外国に1年の半分以上滞在(183日ルール)していかどうか?」になりますが、そういった形式基準だけでは安易に決定できないのが厄介なところです。

富裕層向けビジネスとして「節税のために海外移住」というキーワードが拡がり、「海外移住するば節税できる」かのような都市伝説があります。これは大きな間違いです。仮に多少の節税が出来たとしても、そのためにワザワザ海外移住することにどんなメリットがあるのでしょう?真面目に事業で海外市場に目を向けている人にとっては、とても迷惑な都市伝説です。

 

事業を営んでいる方なら自分の居住地決定は、個人所得税の節税より事業成長に関心が強いですし、引退間際であれば、高齢になって税金のためだけに海外移住するのは非現実的なのです。特に日本人は高齢になると望郷の念が強く表れるようで、日本に戻る方が多いんじゃないか?と思います。

非居住者での最大のメリットである「親子で海外移住すれば贈与税・相続税回避」スキームも、武富士問題(*1)を契機に2000年税制改正で5年に、2018年税制改正で10年に必要移住期間が延長され、既にメリットを失っています。

 

Permanent Traveler にはなり得るか?

居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断することになります。

(注) 滞在日数のみによって判断するものでないことから、外国に1年の半分(183日)以上滞在している場合であっても、わが国の居住者となる場合があります。

1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」の場合であっても、その人の生活の本拠がわが国にあれば、わが国の居住者となります。

外国(A国)の居住者となるかどうかは、A国の法令によって決まることになります。A国で居住者と判定され、わが国でも居住者と判定される場合、租税条約では、二重課税を防止するため、居住者の判定方法を定めています。どちらの国の居住者となるかを判定するに当たっては、わが国とA国との租税条約によりますが、国籍をひとつの判断要素としている条約もあります(日米租税条約等)。なお、必要に応じ、両国当局による相互協議が行われることもあります。

国税庁HP「タックスアンサーNo.2012居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)」より

 

事業が複数国に展開している事業オーナーの場合、どの国にも183日未満しか滞在していないケースが生じるのですが、そのような場合、確かにどの国に対しても非居住者扱いになる「永遠の旅人(Perpetual Traveler, Permanent Traveler)」が成立します。ただその場合でも課税から逃れられる訳ではありません。

時々勘違いされる方がいますが、例え「非居住者」であっても、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)は日本で(源泉)所得税を納める義務があるのです。

他国から得た収入(所得)はその国で課税されるのであって、決して無税になる訳ではありません。「国によって税率が違う!低い税率で税金を納めている節税じゃないか!」という意見を聞きますが、それは当たり前です。このような状態で他国から得た収入(所得)を日本で納税していたら、他国から納税回避で追及されてしまいます。

 

節税のための海外移住は成立しない

結論から言うと、「節税のための海外移住は成立しない」のです。

富裕層向け金融商品・アドバイスは「運用」より「節税」が主目的なものが多く、税務当局の規制との「イタチごっこ」なのは実情です。税法のスキを突いて様々なスキームが組まれていますが、どれも永続性に欠けていて、おススメできるものはありません。安易な「富裕層向けアドバイス」に傾斜しないようにして欲しいと思います。

 

海外富裕層の中には「国籍・居住地・納税地」を意図的に選択している人は実際に居ます。こういった方々は租税回避というより、グローバルに自分の能力・ビジネスを展開させていく上で、どのようなライフスタイルが最適なのか?に優先順位があります。

 

*1 武富士問題(日本経済新聞の記事引用)

武富士元専務への課税取り消し 2000億円還付へ

消費者金融大手の武富士創業者、会長(故人)の長男で元専務が、生前贈与を受けた海外資産に約1330億円を課税されたのは不当だとして取り消しを求めた訴訟の上告審判決が18日、最高裁であった。第2小法廷(須藤正彦裁判長)は課税を適法とした二審・東京高裁判決を破棄、取り消しを命じた一審・東京地裁判決を支持した。

訴訟では、海外居住者への海外資産贈与を非課税とした当時の相続税法に照らし、元専務の住所がどこだったかが争われた。同小法廷は香港と日本の両方に居宅があった元専務について、仕事以外も含めた香港での滞在日数の割合は約65%、国内滞在の割合は26%だったとして「生活の本拠は香港だった」と認定。そのうえで「税回避が目的でも客観的な生活実態は消滅せず、納税義務はない」と結論付けた。

裁判長は補足意見で「海外経由で両親が子に財産を無税で移転したもので、著しい不公平感を免れない。国内にも住居があったとも見え、一般の法感情からは違和感もある」と、元専務側の行為が税回避目的だったと判断しながらも、「厳格な法解釈が求められる以上、課税取り消しはやむを得ない」と述べた。

2000年の税制改正で、贈与する側か受ける側のいずれかが過去5年以内に日本に住んでいれば、海外資産も課税対象となった。

日本経済新聞オンライン 2011年2月18日配信より引用・抜粋

「相続税逃れの海外移住は許さん!」という国税庁のやる気を痛烈に感じたこの一件。最終的には最高裁でヒックリ返って武富士元専務が勝訴し、仮納付された2,000億円に400億円という利子(加算金)がプラスされて還付されました。国側は敗訴したものの、この裁判と並行して着々と税法改正を進め、相続税逃れ海外移住スキームは潰されていきました。

 

 

セカンド・オピニオン㈱代表取締役
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