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書評:<社長室という戦場>

ユニクロの柳井さんが、自分の経営を支えてくれたバイブルだとか言っているのを雑誌で見て読んだ記憶がある。ハロルド・ジェニーン+アルヴィン・モスコーによる「プロフェッショナルマネジャー;58四半期連続増益の男」(プレジデント社)である。

 

さらには、ジェニーンという人への個人的な想いもあった。

 

投資銀行の世界でM&Aの神様と呼ばれている人がいる。ラザールフレールというM&Aの老舗のトップバンカーだったフェリックス・ロハティーンである。彼や彼のボスであるアンドレ・マイヤーについては未訳だが、Finacierというとても面白い評伝がある。昔のぼくのアイドルだったロハティーンがM&Aのプロになったのは、何十人の経営者とそれぞれいくつかのM&Aのアドバイザーをしたからじゃなかった。米国の70年代というコングロマリッドブームの時代に、ジェニーンという経営者のM&Aのすべてにかかわることで、彼は経験値を上げたのである。さらに幸運だったのは、普通の経営者と違って、ジェニーンはホテルから電話会社まで、M&Aのデパートのような人だったのである。アドバイスなんてことを生業にしていた頃は、ロハティーンが師匠だったが、アドバイスをされる側に移行した頃に読んだジェニーンの本は、気持ちのいい程身体にしみこんでいった。優秀なビジネススクールの先生やコンサルタントたちのみばえのいい議論とは違った血の通ったノウハウが伝わってくる。

 

たとえていえば、コートドールのオーナーシェフの斉須さんが書いた「調理場という戦場」のような気持ちのよさだった。料理つながりというわけではないが、こんなところは最高だ。

 

私が経営決定をおこなうようになってから半世紀以上が過ぎたが、そのすべてを要約せよと言われたら、究極的な成功を目指して事業を経営するこつは、かまどでなにかを料理する時のようにやることだと言いたい。

かまどで料理をする時はどんなふうにするだろう?原始的なかまどでは、火や薪や空気の流通その他の要素は自動的にはコントロールされないから、絶えずすべてに気を配っていなくてはならない。また、料理についてはある程度まで調理法にしたがうだろうが、なにか自分自身の特別なものを付け足すだろう。調味料やスパイスを入れるのに、いちいち計量はしない。適当に振りこんだり、注いだりする。それから料理ができていくのを見守る。

鍋から目を離さない。時々出来具合を見る。においを嗅ぐ。指をつっこんで味見をする。自分の好みに合うように、また少し何かを添加するかもしれない。そしてそれが全体の中にとけこむのを待って、また味見をする。それから同じことをもう一度、もし何かが気に入らなければ、それを修正する。

なにをするにせよ、いちばん大事なのは目を離さないことだ。ほかのことに気をとられたりしていると、その間に煮えすぎたり焦げついたりしてしまうかもしれない。そしてちょうどいい出来具合になった時、ちゃんとそこにいて鍋をかまどから下ろしてやらなくてはならない。そうしてついに料理人としての自分の能力を最大限に振るったポット・ローストなりラム・シチューなりができあがる。それは電子レンジのボタンを押すだけで自動的に料理されるどんな肉よりもおいしいはずだ。それが身近に文明の利器がない時、かまどで料理をするやり方だ。そしてそれが、ビジネスの経営に望む私の心の持ち方である。

 

こんな知恵とウィットが満載の本である。経営者にも経営者になりたい人にも経営されている人にもおすすめだ。

 

【書評:By 紙魚】